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(ひがし)弁護士に聞く①

住民票≠実際のくらしのカタチ
…どうやって説明すれば役所にわかってもらえる?

 今回取り上げるのは,震災直後の2011年,東弁護士が実際に携わった事件『 住民票は「1世帯」でありながら,「2世帯」の認定をうけ,義援金・生活再建支援金2世帯分支給を可能とした』案件。
 まずは背景からお聞きしていきます。

大澄--
生活再建支援金,義援金とはなんですか。よく耳にはしますが,今ひとつ違いが分かりません。
東---
生活再建支援金(以下,支援金と表現します)とは,災害被災者の生活再建のため,被災者生活支援法という法律に基づいて,政府(所管は内閣府,事務手続は都道府県)の主導により,国の予算から支給するものです。
一方,義援金(義捐金)とは,募金活動等を行う団体(主に日本赤十字社,中央共同募金会,日本放送協会等)を通じて,各地から寄せられた善意のお金を,都道府県や市町村の『配分委員会』で配分額を決め,被災者にお見舞金として支給するものです。
大澄--
支給する,と一口に言っても,だれに,どのように,どのくらいということは厳密に決まっているのでしょうね。
東---
そうです。支援金も義援金も,建物被害の場合,市町村が被害程度の認定内容を明記した『り災証明書』に示された,たとえば『全壊』だとか,『大規模半壊』だとかいった段階に基づいて金額が決められています。
支給方法は基本的に金融機関を通じた振込によるもので,原則住民票に明記された世帯ごとの支給ですので,世帯主が申請し,世帯主名義の預貯金口座に入金されることになります。
大澄--
世帯主が遠くに離れて住んでいるとか,入院しているという事もありますね。今回の震災では,世帯主が行方不明となっていたり,お亡くなりになったケースも少なくなかったと思いますが。
東---
その場合は「世帯代表者」という形で,家族の誰かが世帯主の役割を果たします。
大澄--
被災地域に居住していて,被害にあったけれども,住民票は別のところにあった,などということもありますよね?
東---
例えば,石巻市の例を挙げますと,『被災時の住所の判定は住民票で行います。平成23年3月11日時点で,居住地に住民登録をしていなかった場合は,電気・水道・ガス料金の領収書または支払証明書で確認します。』(石巻市役所公式サイト)となっています。できるだけ実態に即した判断ができるよう,市町村でも配慮しているようです。
ただ,まずは住民票の内容によって,居住地,世帯員数(家族の人数),世帯主の確認をし,支給の条件と照合するわけです。
大澄--
領収書など,流されて手元にないとか,処分したとか,必ずあるとは限らないと思います。市役所や町役場で,ここに住んでいたんです,って言えば,信じてもらえるものですか?
東---
ただそう主張するだけでは,実は難しいのです。今回お話する案件も,依頼者さんが役所の窓口で,実際は別々の生活をしていたんだと説明しても,うまく話がとおらなかったようです。
大澄--
それで,先生のところの駆け込んだというわけですね。具体的にどういう相談だったのですか。
東---
住所地が同じ地番だったことから,住民票上は1世帯にまとまっているが,父母世帯の住んでいる建物と,息子家族が暮らしている建物は別棟,家計もまったく別,生活実態としては2世帯だった,なのに役所ではそうとは認めてもらえない,何とかならないですか,というご相談でした。
大澄--
逆に,同一住居に住民票上別世帯が同居しているケースでについては,それぞれ,つまり2世帯なら2世帯分受給することができると聞いたことがあります。
東---
そうです。先ほど例を挙げた石巻市のサイトにもそのように明記してあります。
支給の基準となる世帯をどう数えるかということは,支援金・義援金の額面が半減するか否かの結果を左右するものですから,とても重大な問題です。ですが,役所の判断材料となる住民票の記載が1世帯であるとすれば,「実際は2世帯だった」ということを窓口で手ぶらで申告しても『はいそうですか』とはならない。
大澄--
どうしたらいいんでしょうか。
東---
あくまでも私の場合ですが,ご依頼を受けましたら,まず相談者からしっかりお話を伺い,そのお話を裏付ける,具体的で目に見える資料を整えます。そして,弁護士名義の「報告書」という書面を作成します。具体的には,まず現地(この場合,ご相談者のご自宅)に行って,写真も撮ります。その際にご相談者が見落としているような細かい生活実態を反映したものなどに着目することも多々あります。
大澄--
弁護士さん自ら?
東---
そうです。どこがどのように説得力を持つか,経験値と勘がモノを言いますし,何より,早急に事を運ぶ必要があるからです。証拠となるものが同じ状態でずっとそこにある保証はないわけですから,それが変化したり消失したりしないうちに,確認したり写真を撮っておいたりする必要があります。被災した地域は,取り壊しや撤去,自然の影響による変化もあって,日々様変わりしていますから,なおのことです。
大澄--
大急ぎで依頼者の主張がとおるよう有利な証拠を集めるのですね。
東---
もちろん,有利となり得る事情は見逃しませんが,公正公平な視点は常に保っています。偏りのない大きな視点に立つことは,その後の展開に対応する時の強みになるものです。
大澄--
なるほど。ところでこの時,実際,現地に立ってみて,状況をご覧になって,先生はどう思っていましたか。役所が判断を変えることは可能だと思いましたか?
東---
現状が示す生活実態をつぶさに報告することで,依頼者の主張を十分に立証できるだろうとは思いました。
大澄--
そして,ご親族まとめて1世帯との判断は変更されて2世帯と認定され,依頼者さんは当初の倍額である2世帯分の支援金等を受領されたわけですね。
東---
そうですね,そのままであれば1世帯分であったところが2世帯分ですから,単純に言えば倍額ですね。 被災した世帯をどう数えるかという問題は,今後も私たちに密接で重要な問題です。住宅再建費用の利子補給という制度もありますから。 ただ注意したいのは,今回私が携わった件のように,行政や公共機関,また一般企業などにおいても,物事を形式的に判断・処理する場合があるという点です。
大澄--
表面的とか,なんでも前例に従うとか,そういう感じですか。
東---
しかし,個々の生活者の現実からすれば,皆それぞれ個人的な事情を抱えているものですから,その実態に着目せず,全て一様に,形式的に判断するというのは無理な話です。 何か,直感的に「おかしい」と思った事があったなら,それをそのまま,率直に相談してもらえれば,と思います。そこには現実的で,より真実に近いところでの議論や展望が開けていく可能性がおおいにあるわけですから。