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(ひがし)弁護士に聞く②

債務整理の実情−その1

今回は,昨今よく目にする,そして耳にする,「債務整理」について。
聞き手も興味津々でお聞きします。

「東先生と債務整理」

大澄--
かなりの件数の依頼を受け,完了しているとお聞きしました。
東---
今ざっと手元の資料を見ますと,過払金回収,破産や再生手続,二重ローン対策の個人版私的整理ガイドラインに基づく債務整理,債務の支払方法交渉といった「債務整理全般」について,旧気仙沼ひまわり基金法律事務所時代(平成19年4月~平成24年3月)から,これまで(平成27年3月)の通算で,約830件となっています。これは現時点で手続がすべて完了している方の数です。
ちなみに,1件(依頼者お1人)について,借入先の業者数,いわゆる債権者数は,たいてい複数です。少なくても2社から5・6社,多ければ10社15社と,2桁にのぼるケースもめずらしくありません。
大澄--
ということは,依頼者数ではなく,1個1個の解決された案件数を数えたらもう,すごい数になってしまうんですね。これは気仙沼に来て以降ということですから,気仙沼エリアにおいてのみの実績ですか?
東---
もちろんです。相当多い方ではないかと自負しています。後述しますが,すべての案件について,弁護士東が依頼者の皆さんと直接面談し,打ち合わせを重ね,方針や対策を検討し,皆さんそれぞれの実情を十分に考慮しながら丹念に手続を進めた結果がこの数です。
大澄--
ここで言うのもなんですが,「債務整理」という言葉は大きな括りですよね。これだけだとイメージがわきません。具体的には,例えば,先ほど先生が挙げられた内容をくりかえすと,
①『破産(再生,私的整理ガイドライン手続)』,
②『過払金回収』,
③『支払交渉』
大きく分けてこの3つと考えていいですか?
東---
そうですね。
では,今整理していただいた3種類について順を追ってお話しします。
まず,借金関連の受任約830件のうち,①の破産・再生申立関連は約200件になります。

破産・個人再生は,裁判所に書面で実情を伝えて(申立),債務免除や債務軽減を「公的に認めてもらう」(免責・認可)という手続です。
申立のための書面作成や,申立書に添付して提出するべき資料や疎明書類を揃えることは,地道で綿密さを要する業務ですが,おかげさまでこれだけの方々について手続を終え,再スタートの後押しができました。
なお,破産申立書を提出した裁判所が,特に注目する書面は「陳述書」といって,破産にいたる過程や事情,当事者としての思いを文章にして述べるものなのですが,これ,全件について私自身が聞き取り,作成しています
大澄--
全件って,200件すべてということですか?
東---
そうです,すべてです。裁判所が念入りに吟味するところですから,依頼者ご本人の事情説明,ご意見だけではなく,客観的な状況判断も念頭に作成します。
また,震災後の,いわゆる二重ローン問題対策で設けられた『個人版私的整理ガイドラインに基づく債務整理』の制度利用については,人数にして約60名,住宅というのはご夫婦共有名義,連帯債務の住宅ローンが多いものですから,世帯あたりで計算しても約40以上の被災家屋住宅ローンについて,様々な形での債務免除,債務軽減に漕ぎつけました。

「震災後の二重ローン問題」

大澄--
私的整理ガイドラインは成立が難しいというニュースを何度か耳にしました。東日本大震災における,流失を含む全壊家屋は約13万件に迫る(※12万5900戸。2012年4月25日付警察庁発表)というのに,平成27年3月時点で運営委員会から発表されているガイドライン債務整理の成立件数(※個人版私的整理ガイドライン公式サイト)は,宮城支部管轄で781件だそうです。計算してみたんですが,東先生による制度利用代理や支援が,宮城県の成立件数の約8%を占めているということになります。
東---
そうなんですか。
大澄--
ちなみに全国成立件数が1196件ですから,全体で見ても約5.2%を東先生が占めています。これは全国トップなんじゃないでしょうか?
東---
それはわかりませんが,善戦しているとは思います。
大澄--
先生ご自身についても,ご自宅と事務所とが被災していらっしゃるにもかかわらず,すごい実績だと思います。
東---
被災しているからこそかもしれませんね。被災者の視点を忘れたことはありません。

「自己破産とは」

大澄--
破産の話に戻りますが,私達一般民衆にとって,「自己破産」という言葉はとても重く,言ってみれば衝撃的な響きです。
東---
そうですね。弁護士は,破産問題に関わる業務(申立代理人,破産管財人等)を引き受ける立場ですから,破産事件は当事務所でも常に扱っているのですが,大澄さんの認識は,実際のところ,妥当なものです。
破産は,破産者とその周囲に大きな影響のある手続に間違いありません。ですから,ご相談をお聞きする時は,弁護士もその点をしっかり説明し,その重みを共有しつつ,それでもなお「破産しかない」となれば,再スタートのため,思い切って提案するわけです。
と言っても,この方針選択については,弁済を継続しながら切り抜ける道を探るか,破産を選択するかは,依頼者の皆さんとご家族,関係者の状況を左右する重大な決定ですので,弁護士として最も悩ましいところです。
もちろん,こちらが提案した方針に対し,首を縦に振っていただけない事もあります。そういう場合は,それぞれの事情についてさらにじっくり話し合い,別の見方,意見,主張も受け入れながら,方針を固めていくのです。
大澄--
こなしていらっしゃる量から,スピード第一なのではないかとおもっていました。
東---
緩急つけます,事務所側での対応となったらそのスピードは早いですよ。また,これからお話しますが,方針選択の際に押さえておくべきいわば要所というものがありますから,初めから要点整理の確実さとスピードのためにそういったことを念頭にお話しを伺っているのですけれども,
大澄--
相談している時の,弁護士さんの胸の内ですね。
東---
はい。まず,現時点での依頼者さんの財産状況…現金・預貯金だけでなく,自動車,不動産,生命保険や傷害保険,出資証券や株券,他にも,まだ相続登記していないけれど相続する権利や持分がある土地,といった財産について,もれなく,きちんと把握したいと思って話を聞いています。
大澄--
もしかして,自分で知らない財産があったりするかも。
東---
そうなんです。実は,破産申立準備の中で,不動産であることが多いのですが,「こんな財産があること初めて知った」という方もけっこういらっしゃいます。ですからその可能性にはいつも注意しています。

「気仙沼と自己破産」

東---
次に気にしているのは,依頼者さんの今後のお仕事の見込み,収入額の見込みです。気仙沼地域は震災を経て特別な事情を持つ方(失職,減給,不動産収入の減少等)も少なくないですし,特にご高齢の方については,あまり長引く返済予定は精神的に負担です。年金生活は厳しいのがおおかたの実情ですからその点を踏まえて検討します。
大澄--
しかも市民の高齢者率は年々高くなっています。
東---
うですね。
ただ,破産手続は,支払免除と引き替えに,前述のとおり一定額を超える財産を手放すものです。さらに社会的信用も,まったく無傷というわけにはいきません。破産者と手続に関する決定日等は官報に掲載されますし,金融機関で共有している信用情報にも強く影響します。ですから,ご家族の状況や将来像のことも念頭に置き,慎重にお話を聞きます。
それから,一番大切な要所として,気仙沼とその周辺エリア特有の事情もありますよね。
大澄--
先ほど,検討する財産に自動車も含まれると仰いました。気仙沼で,破産者の財産だからということで,車を取られるのはけっこう痛手です。公共交通機関はあまり機能していませんし,かといって病院や官公庁,商業施設,住宅地は結構分散していますので,車がないと仕事というか,もう就業の時点で支障を来します。
東---
自動車は気仙沼の方にとって仕事や通院に使用する,いわば生活必需品です。これについては私自身も実感しています。

「偏波(へんぱ)弁済とは?」

東---
ところで大澄さんは偏波弁済という言葉をお聞きになったことがありますか?
大澄--
ありません。どんな字なのかも想像できません。
東---
そうですよね。検討を重ね,さていよいよ破産の選択を現実のものとして念頭に置いてお話するとき,私が一番気にしていることは,この言葉です。
ご親戚や知人への借入,なじみの取引先,家賃の滞納などがあれば,金融業者に先んじて弁済してしまう,「偏波弁済」のリスクが生じます。
偏波弁済とは,「破産申立直前や手続中,一部の相手に限って,偏った返済すること」を言い,またそれを行ってはならないという決まりがあります。これについては,単なる知識不足から,まったく悪意なく,むしろ善意からこの禁を犯すことが少なくありません。
大澄--
返済がとがめられることになるとは,全く知りませんでした。一部の人にだけ借金を返してはいけないんですね?
東---
はい,破産すると決めた以上,一方の債権者について他の債権者に優先して,つまり偏った返済をしてはダメなのです。大澄さんに限らず,破産手続の実情をよく知ってる方などそうそういらっしゃいませんから,みなさんご存じありません。これは念入りに説明します。
ダメついでにお話しますと,破産申立に際しては,家計の費消状況(異常な出費や浪費がないか)や,免責不許可事由といって,パチンコや競馬,飲食店等での遊興費,その他債務を免責するに障壁となる要因,つまり無駄遣いだとか不誠実な支出があるかないかについても,破産裁判所に判断されます。
大澄--
えええっ!
東---
大澄さん大丈夫です,もし破産するとしたら,の話です。借りたお金の返済を免じてもらう手続をするのだから,これは仕方ないことです。
収入に応じて費消している,借りたお金もちゃんと返している,経済的自律に問題ない,というのであれば自分のお金を使うのに誰も文句は言いません。
大澄--
はい。でもなんだか耳が痛かったです。
東---
ただ,よくお話を聞いていけば,債務弁済に窮する皆さんは,それはいろいろと事情を抱えていらっしゃるものです。例えば,偏波弁済についての定めを知らずに友人にだけお金を返した,パチンコに行った,飲酒や遊興に費消した,だからもうダメだ,ということではありません。
むしろそういった行動の背景にこそ,すくいあげなければならない実情が存在するものです。私の役目はそこにあるのではないかと思っています。

ご相談にお話に耳を傾け,皆さんそれぞれの事情に配慮しつつ,その一方で,専門家として着実な検討を重ね,客観的な視点も保ちながら,手続業務はスピーディーに。
破産事件に限らず,どの件についても日頃から心がけているところです。