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弁護士法人 東法律事務所

普通運転免許の停止60日に,事前に「公開による意見の聴取」が実施されないのはオカシイ!

普通運転免許の停止60日に,事前に「公開による意見の聴取」が実施されないのはオカシイ!


・ プレジャーボート・水上バイク
→その免許停止(2年以下,短くて1か月,船舶職員及び小型船舶操縦者法23条の7)につき,事前に「告知聴聞」(行政手続法第3章)を要する。

・ 自家用セスナ機・自家用ヘリ
→その免許停止(1年以下,短くて10日,航空法30条)につき,事前に「告知聴聞」(同章)を要する。

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・ 自家用車
→ その免許停止60日につき,「公開による意見の聴取」は必要ない,,,!!

(行政手続法の適用すらない〔道路交通法113条の2〕,「公開による意見の聴取」は道交法104条による制度)

より生活に密着した車の運転免許が,事前の意見聴取(告知聴聞)すらなく,60日もいきなり停止できるなんて,おかしいですよね?

Q1
「告知聴聞」とか,「公開による意見の聴取」って何ですか?

A1
上記の例について言えば,行政庁が運転免許停止に当り,処分の対象になる人(免許停止を受ける人)に対し,事前に,停止処分をすること・その理由を示し,かつ,その人の言い分を聞く機会を設ける手続です。

これにより,免許停止を受ける人は弁明が出来ますし,処分理由を示され・言い分を聞いてもらった上でなら「納得」して処分に服すことが出来ます(もちろん,不服申立ても出来ます。)。

行政処分を受けるに当り,告知聴聞の機会を設けることは,基本的に憲法31条により保障されています。

Q2
そうは言っても,運転免許停止なんて,年間何万件もあるのだから,いちいち言い分なんて聞いていられないのでは?

A2
告知聴聞の機会の保障が憲法上の権利なら,膨大な件数に対する行政の負担を理由に,その権利を奪ってはなりません。

例えば「忙しいから」「お金がないから」といって,生活保護(憲法25条)を支給しなくてよい,ということにはならないでしょう。


ところで,90日以上の運転免許停止をするに当たっては,事前に「公開による意見の聴取」が必要です(道交法104条1項)。

この点,昭和62年の90日以上の運転免許停止処分の件数は,全国で19万件弱でした(以下も含め,警察庁交通局運転免許課)。

ところが,平成21年以降,90日以上の停止件数は8万件余(H21),7万件余(H22)と減少し,平成25年にいたって5万件余になっています。

また,同じく平成21年以降,60日の停止件数は9万件余(H21),8万件余(H22)と減少し,平成25年にいたって6万件余でした。

つまり,これだけは「公開による意見の聴取」の対象,とされている90日以上の運転免許停止について,昭和62年当時の19万件余に対し,平成21年以降,90日以上と60日の処分件数を合わせても17万件余(H21),15万件強(H22)と減少し,平成25年に至っては11万件強になったのです。

昭和62年当時で,19万件弱の「公開による意見の聴取」に対応できていたのですから,現在,90日以上・60日合わせ11万件強の件数に対応できないはずがありません。

(「公開による意見の聴取」につき,実際に処分対象者が出席するかどうかは自由であり,必ず出席するわけではありません。)

Q3
昭和62年当時と,現在では警察の体制・社会の意識も違うのでは?

A3
そうです。

昭和62年当時の方が,現在より「刑法犯の数」,「検挙者数」,「交通事故の発生件数」,「交通事故の死傷者数」がより多かったです。

それに対し,都道府県警察の定員数も,昭和62年当時(22万弱)から平成21年以降は25万超と増えています。

何より,事務処理に必要な,パソコンなどが大幅に普及・高度化していることも見逃せません。

一方,行政処分に対し,その根拠を確認したり,自己の言い分を述べるなどの権利意識も,相当に高揚しているはずです。

昭和62年当時よりも,むしろ多くの「公開による意見の聴取」に対応できる資源が行政に備わりましたし,また,それを求める意識が社会でも高まっているのです。

Q4
道路交通法104条1項のカッコ書きを読むと,各都道府県の公安委員会が「60日も公開による意見の聴取」と定めれば,そうなるのですよね?

A4
そうですが,弁護士東忠宏において,そのように定めている都道府県は確認できませんでした。

この点,昭和35年12月20日に現行の道路交通法が施行されたところ,警察庁保安局交通課が編集した「道路交通法解説」には,同条の解説として「免許の効力の停止については,停止の期間が九十日以上のものに限って聴聞を行うこととされているが,公安委員会が九十日をこえない範囲内においてこれと異なる期間(一般には六十日となっている。)を定めたときは,その期間以上の効力の停止処分についても聴聞を行わなければならない。」と記載されています。

このように法制定当時,取締側の文献ですら,60日の免許停止についても公開による意見の聴取の保障が期待されていたようなのですが,実際には実現していません。

※「この県の公安規則には,60日の免許停止についても「公開による意見の聴取」を定めているよ」と知っている方,御連絡下さい。

Q5
水上バイクとか,自家用セスナとの対比の意味は?

A5
1) 主として余暇・娯楽目的の水上バイク・自家用セスナの免許ですら,その停止に手続保障が法定されているのに,ことに地方では生活基盤となる車の免許につき停止60日へ「公開による意見の聴取」が法定されていない不合理さを浮き彫りにするため

2) 主として高所得者層のための水上バイク・自家用セスナの免許につき,その停止に手続保障が法定されているのに,広い階層の生活基盤たる車の免許につき停止60日へ「公開による意見の聴取」が法定されていない不合理さを浮き彫りにするため

3) たまにしか運転しない水上バイク・自家用セスナの免許につき,1か月とか10日の免許停止ですら手続保障が法定されているのに,毎日の通勤等のため必要な車の免許につき停止60日へ「公開による意見の聴取」が法定されていない不合理さを浮き彫りにするため
(小型船舶免許につき1か月停止,航空従事者につき10日停止が実際の処分としてあります。)

4) 昭和28年12月1日に施行された旧道路交通法取締法(現道路交通法の前身)は告知聴聞を定める(対象期間は公安員会が決めるとされた)など,もともと,免許停止前の手続保障は先進的でした。

A4のとおり,昭和35年12月20日の現行法施行時も,60日停止についても「公開による意見の聴取」の対象とされることが期待されていました。

ところが,50年以上が経過した現在も,なお対象とされていません(A4)。

この間,昭和42年に「運転免許の仮停止」制度が設けられ,重大事故を起こした者の免許を即時停止する処分がなされるようになりましたが,それすら,同処分より5日以内に弁明の機会を保障するよう適正手続が法定されています(道交法103条の2第2項)。

また,平成4年7月1日の,いわゆる成田新法事件最高裁判決は,行政手続にも憲法31条の適用が及ぶ場合について述べています。

そして,平成6年10月1日に施行された行政手続法により,小型船舶操縦者(小型船)の免許,自家用操縦者(自家用飛行機)の免許にも告知聴聞の機会が保障されることが法定され,上記のとおり不均衡が顕わとなりました。

それから15年が経過した平成21年以降,A2のとおり,車の免許停止は膨大だから60日免許停止まで「公開による意見の聴取」は保障できない,という理由も根拠を失っています。

2014年07月12日

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