リアスの風〔第2回〕
落語の来訪
長屋住まいの男のもとに別の男がやって来て,おかしなことを尋ねたり,とんでもない相談を持ちかけたりする。大抵の落語の発端です。
落語はもちろんおもしろいものですが,その中にかつての庶民の生活や,江戸時代の裁判が語られる噺というのもあり(「帯久」,「鹿政談」,「天狗裁き」など無数にあります。),それらを聞くのも楽しみです。
ひょいと訪れた酒場で偶然友と会うほど楽しいことはない,といいますが,私も落語を聞きながら,こんな具合に知り合いが何の前置きもなくフラリとやって来てくれて,無駄話が始まったらさぞ楽しいだろうな,と想像します。
大阪から来て3年が経とうとしていますが,もちろん気仙沼へ連絡もなしにやってくる友達はいません。
考えてみますと,古典落語の舞台である江戸や明治時代,庶民が前もって相手に訪問を電話で知らせるでもなし,このようにフラリと話しに行くほかなく,ごく当たり前のことだったのでしょう。
これに近いことは,司法試験に合格した後,修習生として寮住まいで経験しました。私は寮祭の発起人などもしていたので,むやみに人が来るのです。
弁護士業務は,法廷や出張,法律相談・打合せの連続ですので,どうしても予めスケジュールを組まなければなりません。法律相談は事前の予約をお願いします。
しかし,勝手な時間に勝手にやってくる落語の世界は,実に楽しそうです。
(平成21年8月11日の河北新報リアスの風に掲載したもの)
2009年08月11日