リアスの風〔第6回〕
一人酒盛
落語に「一人酒盛」という,長屋へ引越してきた男が,挨拶に来てくれた者に手伝いばかりやらせ,自分は酒をやたらに飲んで何のかんのと相手には飲ませず一人酔い,ひどい酒癖をさらし,その酔っぱらいぶりを笑う,という話しがあります。
この話は,もちろん噺家の酔った様子の形態描写がおもしろいところですが,私は,男の「酒のあてには鍋焼きうどんがいい,上に載っている色々な具が酒のあてになり,小腹が減ったところでうどんが食べられる。土鍋だから冷めにくいし,火にかけて温められる。」という講釈が妙に気に入っており,確かによくできているな,私も鍋焼きうどんで飲んでみたいものだと思っていました。
しかし,鍋焼きうどんとなるとなかなか注文する機会がありません。出す店も多くないのです。大阪の弁護士なら簡単に食べられるのでしょうが。 そこで気仙沼の弁護士である私は,刺身の載ったちらし寿司を鍋焼きうどんの伝で,具でビールをむやみに飲み,そこまではよかったものの,後に残った酢飯ばかりを難儀しながら片付ける,という具合にやってみた次第です。
考えてみますと,特に上方落語は遊びに行く話しも少なく,貧乏長屋の住民ばかり登場しますから,おいしそうな食事が出てくる話は珍しく,気にかかったのかもしれません。 これでお酒を飲んだらおいしいだろうな,と考えるのは楽しいものです。
(平成21年9月15日の河北新報リアスの風に掲載したもの)
2009年09月15日